ども!育児ブロガーかつJTBCエンジニアのまとんです。
先日、子供のオモチャをお風呂場に持ち込んで、シャワーで濡らして壊してしまいました。
ワンチャン直せないかな~と思って、分解してみて、リバースエンジリニアリングしたところ、なんとか直すことができた話をします!
オモチャの仕様
サブスクで毎月送られてくる「こどもちゃれんじぷち」のオモチャです。
考える力を伸ばす知育プログラム|1歳・2歳の通信教育 こどもちゃれんじぷち|ベネッセコーポレーション
見た目はこんな感じで、乾電池で動いて、色々と遊べます。
機能はこのようになっています。
まず、左下の「モード切替スイッチ」でモードを切り替えることで、色々な遊び方ができます。
毎月送られてくる追加パーツを取り付けることで、モードが1個ずつアンロックしていきます。(サブスクを途中で辞めさせない工夫ですね)
「アクションスイッチ」は、各モードに対応した機能が実行されます。
「たいこ、コンロ兼用インターフェース」は、1ヵ月目のモードでは、叩くと音が鳴る太鼓として使えます。
3ヵ月目にお料理パーツが届くと、なんと実はコンロとしても使えるという、多機能インターフェースです。
「幼児玩具あるあるモード切替スイッチ」は、こどもちゃれんじのオモチャでよく採用されているスイッチです。
物理スイッチが3個あり、スイッチを押す組み合わせで機能を切り替えます。スイッチ3個の場合、3ビット=8通りの機能を表現できます。(さらに、内部に磁石があって、磁石のON/OFFで1ビット追加しているものもある)
ここに、スイッチを押す組み合わせが異なる凹凸を底面に有するオモチャを置くことで、オモチャごとの機能を表現できます。(例えばライオンのオモチャを置くとライオンの鳴き声がする、像のオモチャを置くと像の鳴き声をする、など。)
このスイッチはあまりにも賢いので、たぶんベネッセの特許になっていると思う。
今回、水に濡れた状態では、以下のようになっていました。
モード切替サウンド | 各機能 | |
モード1 | ×鳴らない | ×太鼓が反応しない |
モード2 | 〇鳴る | 〇正常動作 |
モード3 | ×鳴らない | ×反応しない |
モード4 | ×鳴らない | ×反応しない |
ほぼほぼ機能が死んでいるのですが、モード2は正常動作していたので、完全にICが故障しているわけではないことが分かりました。
ICさえ生きていればワンチャン直せる!と考えて、パパは夜なべして修理にトライしました!
分解して水分をふき取る
水没なので、なにはともはれ、水分をふき取ります。
乾電池ソケットの中。
乾電池が液漏れして、電解液が漏れ出て、こべりついていました。
電解液は人体に毒です。非常に危険です。
電気を使うオモチャをお風呂場に持ち込むのは絶対に辞めましょう。ホンマに。
まずはビシャビシャになっていた乾電池を拭いてみましたが、特に直りませんでした。
次は、中を開けてみます。
おぉー!中はこうなっているのかー!
とりあえず、中の水分をティッシュでふき取りました。
水没してから3日間ほど経過していましたが、中はびしょびしょのままでした。
しっかり密閉されたケースの内部の水は、自然蒸発するのにすごく時間がかかります。
こうやってフタを開けられるだけ開けて、水をふき取って、さらに1日放置して乾燥させました。
中の機能を考察すると、上記のようになっています。ふむふむ、なるほど。
各機能に対応するスイッチ各種が、フラットリボンケーブルでメインボードに集約されています。
スイッチやスピーカなどのメカニカル部品は、経験上、水に濡れたぐらいでは壊れることはないため、修理の優先度を下げました。
仮に、どこかでVDDとGNDがショートしていたら一発で壊れますが、前述の通り、少なくともモード2は機能していたので、システム全体でVDDとGNDのショート箇所は無い=各種メカニカル部品に致命的な故障は無い、と判断しました。
なので、まずはメインボードから見ていきます。
メインボードのサビを清掃
メインボードのネジをはずしてみると、すごいことに!
びっしりと青サビが付着しています!!
青サビといえば、高校の化学でもおなじみの、緑青(ろくしょう)ですね。銅が酸化して生じるサビです。殺菌効果があり、手塚治虫の「ブッダ」ではシッダールダが薬として用いていたやつです。
基板パターンの銅に水が付着して、3日間の間に一気にサビが進行したのでしょう。
酸化銅は、ピュアな銅と比べれば抵抗率が高いですが、何かしらでショートを引き起こしている可能性があるので、とりあえず、マイナスドライバーでサビをガリガリ削って、清掃します。
清掃後。だいぶキレイになりました。
右上のランドが並んでいるところは、あまりキレイにできなかったのですが、テスタで調べてもショートしていなさそうだったので、まぁこれくらいで十分かと判断。
この状態で、メインボードを元に戻して、乾電池をセットして動作確認しました。
モード切替サウンド | 各機能 | |
モード1 | ×鳴らない | ×太鼓が反応しない |
モード2 | 〇鳴る | 〇正常動作 |
モード3 | ×→〇鳴る | ×→〇正常動作 |
モード4 | ×→〇鳴る | ×→〇正常動作 |
何が良くなったのかよく分からないですが、モード3とモード4が復活しました!
しかし、モード1が直りません。モード1は次女が最もお気に入りのモードなので、なんとか直してあげたいところ。
次は、モード1に関連するコンポーネントを重点的に見ていきます。まだまだ戦いは続きます。
メインボードの回路を分析→故障原因を特定!!
次に、メインボードの回路を分析していきます。
簡単にわかるのは上記の情報です。細かいところはよく分からないです。
パスコンは、電源のプラス端子とマイナス端子のすぐ近くに設置する巨大なコンデンサで、電源由来の高周波ノイズをカットするローパスフィルターとして機能します。おまじないとして、あらゆる回路に採用されています。
図示していないですが、乾電池プラス電極の少し上のところにF1とシルクで書かれたチップ素子がありますが、これはおそらくフェライトビーズで、これもノイズ除去として働いています。
今回、最大の救いとして、メインICチップが黒色の樹脂モールドで保護されていました!メインIC内部の半導体チップが壊れてしまうと、手作業での修理は不可能になります。樹脂モールドのおかげで、少なくとも水の付着による直接の故障は回避することができているようです。
こうやって、大事なところにはコストをかけて、幼児オモチャの信頼性を高めているのでしょうね。
まず気になったのは、モード1が使用する太鼓インターフェースを実装している、フレキシブル感圧センサです。
これは感圧センサを使ったことがある人(ロボットに触覚を持たせるとか)にはおなじみの感圧センサです。原理は、圧力に応じて抵抗値が下がる感圧素材をフレキ基板の櫛歯電極表面に塗布したシートで、押したとき(太鼓を叩いた時)に2端子間の抵抗値が下ります。抵抗値の変化をアナログデジタル変換することで、感圧センサとして機能します。
水で濡れたくらいで壊れることはないと思うのですが、モード1に関連する機能なので、調査しました。
このオモチャのシステム全体を通して、感圧センサのみ、メインボードとの接続がハンダ付けではなく、基板同士の物理接触に頼っていたので、ここの接続の信頼性が低く、ちょっと怪しいなと感じました。
例えば、水に濡れた影響で、感圧シートとメインボードの接触抵抗が異常値になると、機能がおかしくなると考えました。
そこで、各パッドをテスタで針当てして、抵抗値を計測。
メインボードのパッドが、針当ての反応が少し悪かったので、銅パッドの表面に酸化膜が生じている可能性がありました。マイナスドライバーでガリガリやって金属光沢を出すと、復活しました。
それ以外は、問題なさそうだったので、他の箇所を見に行きます。
次に怪しいのがスライドスイッチでした。
まずこのスライドスイッチ、すごく賢い実装となっていました。スイッチをスライドさせると、基板上のパターンの導通パスが変わることで、モードの切替をICチップに伝達する仕組みとなっていました。
さらに、パッドの間隔や、スイッチについている金具のバネ剛性が絶妙の具合になっていて、チャタリング(モード切替時にフラフラ振動してしまう現象)を回避できているようです。
スライドスイッチ特有の電子部品を使わず、このようにボードのパターンと、単純な金具だけを使って実装していて、めちゃくちゃ賢いなと思いました。これもベネッセの特許になっていそうだ。
さて、今回、モード1がおかしいので、モード1に関連する基板パターンをよく確認していくと・・・
原因を特定できました!!
モード1のパッドの一部が、金属パターンがはがれて、断線していました。他のモードのパッドは、キレイな金属光沢が残っており、正常に導通しています。
これにより、スライドスイッチをモード1に設定しても、ICチップにモード1の切り替えが伝達しない(乾電池の+電圧=+VBattが伝わらない)ことが、今回の故障の直接の原因でした。
このはがれてしまった円形パッドは、基板開発者が、動作テスト用に針当てするためのパッドでしょう。針当てするためにパターン表面にカバーレイ層が無いため、水分に触れてサビてしまい、回路が断線して、今回僕がマイナスドライバーでガリガリ清掃した際に、とどめを刺した形になります。
原因が明らかになれば、あとは直すだけ
直すのはただの作業です。頭を使うことはありません。
学生時代に秋葉原の千石電商で買った安物のはんだごてをクローゼットから引っ張り出してきて、断線した部分を導通させます。
ただ導通させればOKなので、剥がれたパッドを迂回して、てきとうな抵抗の足をはんだ付けして、修理は終わりです。(金属パターン側は表面のカバーレイをマイナスドライバーで剥がして、パターンを露出させています)
無事に直った。よかったよかった
かかった工数は、洗浄に1時間、原因特定に1.5時間、はんだ付け修理に30分程度でした。
約3時間のパパの夜なべです。
一番苦労したのは、学生時代の工具箱をクローゼットの奥深くから引っ張り出してくることでした。
今回の感想としては、幼児オモチャってすごい実装力の塊ですね!!!
まず、内部の空中配線が全てフラットリボンケーブルになっているところに驚いたし、ICチップの樹脂モールドや、スライドスイッチの巧みな実装など、エンジニアとして非常に勉強させていただきました。
また何かオモチャが壊れたら、直していこうと思います!
ちなみに、
今回僕は学生時代に買った安物のはんだごてを使いましたが、今なら間違いなく、白光の温度調整できるコテを買います。
3800円程度で、すぐに温まるし、文句なしの熱量が得られます。(昔、教授が「温度調整できる20万のコテを買った!ドヤー!」とか言っていましたが、今なら3800円で買えちゃうんだよなぁ)
こて台が一緒になっているセットもあります。セットで買うならこちらがオススメです。
電子工作において「弘法筆を選ばず」とか言っちゃうのは素人です。
良い工具を使って、単純作業はさっさと処理してしまう方が絶対に良いです。
以上、メタラーまとんでした。
ではでは。